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旭川地方裁判所 昭和47年(モ)573号 判決

申立人 深川市農業協同組合

右代表者理事 岡田千代蔵

右訴訟代理人弁護士 高橋岩男

相手方 深川木材工業株式会社

右代表者代表取締役 岡清

主文

旭川地方裁判所が昭和三十七年十一月十九日、同裁判所昭和三十七年(ヨ)第一〇〇号不動産競売手続停止仮処分申請事件についてした仮処分決定を取り消す。

申立費用は、相手方の負担とする。

事実

申立代理人は、主文と同旨の判決を求め、申立ての理由として、

一  申立人は、旭川地方裁判所に相手方所有の不動産について競売を申し立て、同事件は、同裁判所昭和三十四年(ケ)第四二号として係属したところ、相手方は、同裁判所に右競売手続停止の仮処分を申請し、同裁判所は、昭和三十七年十一月十九日、右同裁判所昭和三十七年(ヨ)第一〇〇号仮処分申請事件について、本案訴訟の判決確定まで右競売手続を停止する旨の仮処分決定をした。

二  相手方は、申立人を被告として右本案訴訟について右裁判所に訴えの提起をし、同裁判所昭和三十七年(ワ)第二二四号根抵当権登記抹消登記手続等請求事件として係属したが、同裁判所は、昭和四十四年一月二十八日、請求棄却をしたので、相手方はさらに、札幌高等裁判所に控訴の提起をし、同裁判所昭和四十四年(ネ)第三五号事件として係属したが、同裁判所は、昭和四十七年九月二十八日、控訴を棄却した。相手方は、ただちに最高裁判所に上告の提起をし、右事件は、現に同裁判所に係属中である。

三  右上告事件は、一審、二審の結果からみて上告棄却になることは明白であり、このように本案訴訟で一審、二審とも相手方が敗訴したことにより、前記仮処分決定は、事情の変更によって取り消されるべきものである

と述べた。

相手方代表者は、「申立人の申立てを却下する。申立費用は、申立人の負担とする」との判決を求め、申立ての理由のうち第一、二項の事実は認めるが、第三項の事実は否認すると述べた。

理由

まず、実体判断に立ち入る前に、本件取消訴訟の管轄権を当裁判所が有するかの点について判断すると、事情変更による仮処分取消訴訟の管轄裁判所は、仮処分を命じた裁判所又は本案が係属中のときは本案裁判所であり(民事訴訟法七五六条、七四七条二項)、本案の管轄裁判所は、第一審裁判所であるが、本案が控訴審に係属するときは、控訴裁判所であるとされている(同法七六二条)(したがって上告裁判所は、本案の管轄裁判所となることはできない)ところ、本案係属中の裁判所が取消訴訟について管轄権を持つものとされるのは、本案訴訟と取消訴訟とが関連するところから審理の便宜上そのようにされているものと解されるので、本案が上告審に係属中のときは、前記のとおり上告裁判所は本案の管轄裁判所となることができないのであるから、審理の便宜の点を考慮する必要はなく、したがって本案裁判所が取消訴訟の管轄権を持ついわれはなく、仮処分を命じた裁判所がその管轄権を持つものと解するのが相当である。本件仮処分の本案が本件取消訴訟の提起のとき上告審に継続していることは、当事者間に争いがないのであるから、本件取消訴訟の管轄権は、仮処分を命じた裁判所である当裁判所が持つものというべきである。

そこで実体について判断すると、請求原因第一、二項の事実について、当事者間に争いがなく、このように仮処分債権者が本案訴訟でその請求を理由のないものとして敗訴した場合は、仮処分申請にあたって疎明ありとされた被保全権利の不存在を推測させるものであり、しかも第二審においても敗訴したものであれば、たとえ右判決が確定することなく上告審に係属中であっても、右上告審でたやすく取り消されることが予想されるような特段の事情が認められない本件においては、前記推測は、さらに動かしがたいものと考えられるから、さきに許された仮処分が本案訴訟の判決確定まで競売手続を停止すると命じているものであったとしても、右仮処分を存続させることができなくなったものと解するのが相当であり、民事訴訟法七五六条、七四七条一項の「事情の変更」があったものということができる。

すると申立人の本件申立ては理由があるから認容することとし、申立て費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 榎本恭博)

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